少し肌寒い3月下旬のイギリス。午後4時30分のThe Royal Albert
Hall前。駐車場の入り口で会ったRogerが言った…「We are going to Japan this summer.」と。ありがとう。その言葉が聞きたかったのです。噂だけじゃなかったんだね!メンバーもスタッフもみんなが日本人に来日のことを言いたくてしょうがない雰囲気が伝わってきた。
前座は昨年のUKシーンで快進撃をしたThe Coralだったが、Paul WellerなどのVIP客の会場入りを外で見ていたため、後半部分しか聴くことができず、少し残念な気持ちはしたが、すでに心はThe
Whoへボルテージ全開。
とうとうThe Whoのライブを本国UKで体験する時がきた。2年前のTCT(Teenage Cancer Trust)の時、チケットの申し出をいただきながらも決心がつかず、The
WhoでのJohnを見る機会を逃してしまった自分としては、場所同じくRAHでThe Whoを見ることは、アメリカツアーの時以上の思いがある。
ステージに現れたメンバー。割れんばかりの歓声。アメリカでも感じたことだが、年配の夫婦で来ている方が多い。海外にて往年のファンの方と一緒にライブを体験できることの喜びの1つは、こういった"The
Whoがとても愛されている現実"に出会えることだ。
Peteがギターを試しに爪弾く。そして少しの沈黙。これからThe Whoが演奏を始めるんだという緊張感…たまらない。Rabbitのシンセサイザーが沈黙をやぶった。1曲目は「Who
Are You」。先週行われたThe Forumでのウォームアップギグと同じだ。会場のせいだろうか、アメリカツアー(野外とアリーナ)の時よりも、Rogerの声が力強く聴こえた。そして、時間が成せる業か、Pinoのベースは一段とThe
Whoの中に溶け込んでいた。あれから2年。Johnファンはどんな思いで聴いているのだろうか。それは、きっと、Keithファンの私がZakのドラムに彼を描くのとは違うだろうから。
MCは挟まずに、観客の拍手が鳴り響く中、2曲目の「I Can't Explain」が始まった。何やらZakのドラムの調整が悪いようだ。彼は、曲中に袖のスタッフを呼び、何かやってもらっていた。次も…その次の曲でも…。「Behind
Blue Eyes」では、ドラムが入る前までの部分でZak自身が袖に入って、途中からドラムに座った。どうしたのかな。でもその後は、大丈夫みたいだったので、一安心。あのままでは、私自身がライブに集中できずに大変なことになっていた…。そして、このレポを書きながら、ふと思い出す…「Baba
O'Riley」を全然覚えていないのだ!!なんという失態(涙)。
(私の文章というのは、いつもライブレポとしては非常に稚拙なものであり、書くことといえば「素敵だった」ばかり。しかし、私にとっては目に映った光景を書き留めておくことがライブレポなのだ。私の目が追ったものが、Zakファン以外にとって、つまらないものだと知っていても。)
今回のThe Forum&RAHライブは、4回がすべて公式ブートCD化することが決まっている。TCTということと、入っていたカメラの数からしてDVD化もありうるかもしれない。私は、それらを見聴きした時に、自分の思い出(記憶)が塗り替えられることを恐れている。
このRAHで私の座席はKエリア。アリーナのまわりを囲むすり鉢状部分の舞台正面の7列目だった。PeteとRogerの間から、何の障害もなくZakを、しかもバスドラ2つまでまるまる見られるなんて!アリーナにいると、どうしても人の頭で部分的に隠れるところがあるが、ちょっと離れても、狭いRAHなら側面で満足だった。しかし、贅沢を言うと、あまりにもクリアに見え、しかもステージ後ろに設置されたスクリーンがライブ映画を映しているような雰囲気を与えるため、時間が経つにつれ、生々しさが薄れ、DVDを見ているような錯覚に陥らされた。(もしかしたら、2年前のアメリカツアーの方が、自分の中の思い出として鮮やかに残り続けるのかもしれない…。)
5曲あまりのヒット曲が続き、その後には(PeteがMCで言ったとおり)『QUADROPHENIA』からの名曲「5:15」。会場の雰囲気も良いし、客のノリも良い。しかし、意外に感じたのは、アリーナ以外ではほとんどの客が座っているということだ。席のあるRAHだからか。またはTCTというイベントのためだろうか。客の年齢層のせいもあるのかな。「5:15」を聴いて、みんな何を思い出しているのだろう。中にはBrightonやMargateで暴れた思い出がある人もいるのではないのかな…。斜め前の夫婦(だと思う)は、ずっと手を握り合っていた。
Zakのドラム・スティックがカウントを取る音から、次は「Sea And Sand」。個人的なことになるが、昨年1年、イギリスの海辺の街に住んでいたので、なんだか今は違って聴こえてくる。The
Whoの曲(に関わらず英国ロックの詩)を本当に理解したいと思い、イギリスの歴史、芸術、文学…なんでも吸収しようとしていた自分を思い出す。
「Love Reign O'er Me」。やっぱりRabbitは欠かせないサポートメンバーだと、すごく強く感じる瞬間。綺麗なピアノの旋律に震え、それだけで『QUADROPHENIA』アルバム全体がドーンと胸の中に溢れてくる。
ここでいったん盛りあがりが極限に達し、冷却(?)の曲「Eminence Front」へ。Peteがこの曲を好んでやっているのを知り、私はライブを見に行くようになってから意識して聴くようになった。普段、ラスト2枚のアルバムはほとんど聴かないのだが…。しかし、アメリカでもイギリスでも、この曲での観客のノリはいまいちだと感じずにはいられない。きっと「何の曲だろう?」と頭の中に「?」がいっぱい浮かんでいる人もいるのではないだろうか。
ここで少し長めのRogerとPeteのおしゃべり。「朝起きて、ドクターに電話して薬が 云々」と客に話しているRogerに茶々を入れて、「俺は木曜に爪を剥がしたけど、何のドラッグもやらなかったぜ」と意地悪そうに言うPeteがとても楽しそうだ。そして、何気なく始まるRabbitのキーボード。「You
Better You Bet」だ!さっきの「朝起きて…」の話は、高音があまり出ない言い訳の前振りだったのか、この曲でのRogerはちょっぴり辛そうだった。
そして…すでに噂で耳にしていたエルビスのピアノ前奏…後ろの方から熱心なファンの合唱が私の背中を押してくる。みんな!!すごい!!たった3日間のThe
Forumでのウォームアップギグだけで、新曲のノリを完全にものにしているのだ。そう、この曲が久々のスタジオ新作「Real Good
Looking Boy」。まったく違うThe Whoになるのではないかと思っていた私の心配は無用だった。そこにあったのは、The Who。本当にThe
Whoの音だった。何の不自然も感じない。Rogerの歌声とPeteのギターがThe Whoを作り、サポートメンバーも良い働きをしている。The
Whoのドラミングに新しい1ページを加えたZak。もちろん、私には感動的な瞬間だった。それと、その横で、身体を前後にゆすりながら地味にリズムギターで土台を固めているSimon。みんなに、ありがとうと言いたい。
「The Kids Are Alright」は、さっきの新曲が頭をぐるぐる回って、あまり覚えていない。現在行われているアレンジを初めて生で聴いたUSツアーが印象的だったので、「あの時と一緒だな〜」ぐらいの感じでしかなかった。ふと冷静になったとき、1つのライブの中でも自分の感情の浮き沈みが色々あるんだなと分析してしまう。
ライブ前にあまり情報を耳にすることは、メリットもデメリットもある。今回の一番のデメリットだったのは、「My Generation」から「Old
Red Wine」(新曲)にメドレーで流れることを知ってしまっていたこと。やっぱり知らずにいて、ビックリしてみたかった…。
「My Generation」は、いつの時代のどのバージョンを聴いても面白い。ベース、ドラム、Rogerのボーカルの溜め…瞬間・瞬間のタイミングに全神経を集中させることで曲にのめり込める。年々鋭くなるZakのバスドラにもゾクゾクさせられる。
続いて、会場が沸き立った「Won't Get Fooled Again」。当然!サビの「We don't get fooled again」では、Rogerが「We」と言ってマイクを離し、後に続いた観客の声がホールいっぱいに響いた。もちろん私も(音痴なことなど忘れて)全身で叫んだ。WE
DON'T GET FOOLED AGAIN !!!
しかしここで小さなハプニング、Rogerが歌詞をとちって、ちょっぴりPeteにフォローされる。表情は確認できなかったけれど、どうやら平気なようだ。良い感じに誤魔化した。間奏は、もちろんRabbitのシンセにからむZakの炸裂ドラム。そういえば、Rabbitも今回のUK公演の日記で、「Zakのバスドラを叩く足には蹴られたくない。彼のドラミングは神様が雷(いかずち)を落とすみたいな感じだ」って書いてたな…。
Peteがサポートメンバーの紹介をした。Zak、Pino、Rabbit…そして、Simonの時には、ちゃんと「新曲2曲をプロデュースした」ことも付け加えていた。
そして、今回のRAH告知で大々的にうたわれたTOMMYコンセプトの結末は…。それは、アンコールでやった『TOMMY』のエッセンスをメドレーでやっただけだった。これは、ウォームアップギグと変わらないらしい。「どんなコンセプトか?」「96年のQuadropheniaのようなのか?」「ゲストは誰か?」「アコースティックらしい(Zakはタンバリン?)」など、様々な憶測が飛ぶかう中でのRAHだっただけに、これには正直、拍子抜けしてしまった。先日出た雑誌でも『TOMMY』についてたくさん語っていただけに、"コンセプトは元々これだったのか?"それとも"何か不都合があってつぶれたのか?"真相を知りたい。(後日談:どうやら、主催者側の先走りだったよう。Rabbitの日記には、「そんなリハはやってないよ」と事前に書いてあったし…。)
とにかく、アンコールのために出てきたPeteが「通常『TOMMY』は70分だから、俺たちは3時間半のライブをやるってことになるのかな」って言ったとたんRogerが「マジ?」って言い、「Pinball
Wizard」のギターがかき鳴らされた時に、全てに気づいてしまったというわけだ。でも、不満は何も残らなかった。2002年ツアーの時みたいに、終わった途端に悲しみが込み上げてくることもなかった(あの時は、追悼ツアーが終わった後にThe
Whoがどうなるか保証がなかったから)。終わった瞬間、満たされた気持ちに加わったのは、「次は日本だ!」という意気込みだった。
最後に、「昨年の辛い1年を通して自分を信じてくれたSimon、Zak、Pino、RabbitそしてRogerにありがとう。それから、全てのみんなに。」とPeteが言ったのを聞き、TCTの度に、いやそれでなくてもThe
Whoはこの先もずっと再生し続けると強く感じたのだった。
3月30日午前1時。寒空の下、少しのおしゃべりと暖かいハグ。「We are going there in July.」とZakが言った。ありがとう。あなたからもその言葉を聞きたかったのです。待ってます。待ってます。待ってます!
(2004/06/26 b-ko : 「B-KO UK」よりテキスト大々的加筆)